1年ぐらい前、私の職場に異動して来た鈴木G長。
話しているうちに、自宅が近所である事が判明。
私は、プライベートまで監視されている様で嫌だったが、人物的には憎めない人柄だった為、いつの間にか仲良くなっていた。仲良くなっている気でいるのは、私だけなのかも知れないが。
私は、彼の所有する車を見て驚いた。
覆面パトカーと同じ車だったからだ。色まで一緒とは、畏れ入る。
度々帰りが一緒になるが、私の心中は穏やかでは無い。
私は、鈴木G長に
「いい加減、車替えて下さいよ~。生きた心地がしない。」
と進言するも、毎回笑顔で交わされる。困ったモノだ。
そんなある日の帰り道、会社を出て1個目の信号機で鈴木G長の乗るクラウンに出会す。
私は距離をとって走行するが、私のホームコースでもある地蔵峠で千切られそうになる。着いて行くのにいっぱいいっぱいだ。
こんな近くに、好敵手がいるとは!
灯台下暗しとは、よく言ったモノだ。
ココで千切られては、地蔵峠の白い閃光と謳われた私の沽券に関わる。
夜間だったが、条件は相手も一緒だ。言い訳にはならない。
私は、右へ左へハンドルを切りながらも、アクセルを踏み込む。
何とかクラウンのテールランプが消えなくて済んだ。私のプライドも保たれた。
そして、高速道路へ進入。
私は、出鼻から挫かれる。
彼にとって、ETCレーンなど関係ない。
アクセルも緩めず、ETCレーンに突っ込んで行く。
私が高速道路へ入ると、彼のクラウンの姿が既に無かった。
私はパトカーを気にしながらも、アクセルを踏み込む。
しばらく86を走らせると、彼の車か覆面パトカーか悩む私がいる。
全くもって、迷惑な話だ。
私は距離をとって警戒しながら、クラウンの背後に着く。
しばらく追走すると、前が詰まっている。
前方のクラウンは、赤灯も付けずに一般車線から抜きにかかる。
私の中で、クラウンが鈴木G長だと確信する。
私は、アクセルを踏み込む。
2台の車は、猛スピードで自宅まで走らせる。
なかなか良い走りをするではないか。クラウンも鈴木G長も。
久しぶりに、楽しい夜だった。
翌朝、鈴木G長も気付いていた様で。
その夜を境に、お互いの走りを認め合う様になった。
が、毎晩は勘弁願いたい。
命がいくつあっても足りない。
そう思わせる走りだった。